浦島太郎も「約束を破ってはいけない」という教訓を語っているという見方もできますが、教訓という面よりも伝記として楽しむものという部分があるのかもしれません。こちらも話の内容が異なるものがいくつかありますが、その1つをご紹介したいと思います。
昔々、心のやさしい浦島太郎という漁師の若者がいました。
浦島太郎は、毎日海へ出かけて魚を釣って、お父さんお母さんとの生活を支えていました。
ある日、浦島が海辺を通りかかると、子どもたちが大きなカメを捕まえて、棒でつついたり石で叩いたりしていじめています。
可哀想に思った浦島は「そんな可哀想な事をしてはいけないよ」と言ったのですが、子どもたちは聞き入れてくれません。
そこで「このお金をあげるから、その亀を売っておくれ」と言いました。
亀を買って助けた浦島は、カメをそっと海へ逃がしてやったのです。
それから二、三日たって、浦島がまた船にのって海へ釣りに出ていると、「浦島さん…、浦島さん…」と誰かが呼ぶ声が聞こえます。
おやっ、と思って振り返ってみても、誰も人は見えません。
そのかわり、海の上にひょこっとカメが頭を出しています。
浦島が不思議そうな顔をしていると、「私は、このあいだ助けて頂いたカメでございます。今日はそのお礼に参りました」とカメが言ったので、浦島は大変驚きました。
「ああ、あの時のカメさんか、わざわざお礼なんて」
「おかげで命が助かりました。ところで浦島さんは、竜宮へ行ったことがありますか?」
「竜宮?竜宮というのはどこにあるんだい?」
「海の底にございます。もしよろしければ私がお連れしましょう。さあ、背中へ乗って下さい」
カメは浦島を背中に乗せて、海の中をどんどん潜っていきました。
青い海の中では、コンブがユラユラとゆれ、赤や桃色のサンゴがどこまでも続いています。
そして、綺麗で真っ白な砂の道の先に、立派なご殿が見えてきたのです。
「このご殿が竜宮城です。さあ、こちらへどうぞ」
カメに案内されて進んでいくと、この竜宮城の主人である美しい乙姫様が、色とりどりの魚たちと一緒に浦島を出迎えてくれました。
「浦島さん、ようこそおいでくださいました。私はこの竜宮の主人の乙姫です。先日はカメの命をお助け下さいまして、ありがとうございます。お礼に、竜宮をご案内しますので、どうぞゆっくりお遊び下さい」
浦島が席に座ると、魚たちが次から次へと見たことがないようなごちそうを運んできます。
そして鯛やヒラメが舞い踊り、気持ちの良い音楽が流れて、まるで天国のような時間を過ごします。
「もう一日、もう一日」と乙姫様に言われるままに楽しい時を過ごすうち、あっというまに三年の月日が経っていました。
そしてある時、浦島は、家族のことを思い出しました。
そこで浦島さんは、乙姫様に言いました。
「乙姫様、今までありがとうございます。ですが、もうそろそろ家へ帰らせて頂きたいのですが」
乙姫様は、寂しそうに言いました。
「そうですか。それはおなごりおしいです。では、おみやげに玉手箱を差し上げましょう」
「この中には、人間の一番大切な物が込めてございます。これを決して開けずに持っていて下さい」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
乙姫様と別れた浦島は、カメに送られてまもなく元の浜辺に帰ってきました。
浜辺に戻った浦島は、まわりを見渡して不思議に思います。
たしかにここは、浦島がいた浜辺なのですが、なんだか様子が違います。
なんと自分の家も見当たらず、まわりの人も見知らない顔ばかりです。
浦島は、そこをちょうど通りかかったおばあさんに尋ねました。
「もしもし、おばあさん、浦島太郎の家はどこでしょう?」
「浦島さん…?さぁ…」
「…。そういえば浦島という人なら、三百年ほど前に海へ出たきりで、帰らないそうですよ」
そう言って、よぼよぼ歩いて行ってしまいました。
それを聞いた浦島は、驚き、呆然としてしまいます。
「お父さんもお母さんも死んでしまったのか…」
そのとき浦島は、かかえていた玉手箱に気がつきました。
「そうだ。この箱を開けたら、何か分かるかもしれない」
決して開けないと約束していたのですが、浦島は玉手箱を開けてしまいます。
すると中から、真っ白な煙が出てきました。
煙の中には、竜宮城や美しい乙姫様の姿、楽しく過ごした時間が映し出されます。
しかし煙は次第に薄れていき、そこに残ったのは、髪の毛も髭も真っ白なお爺さんになった浦島だけでした。
確かに約束は破ってしまいましたが、そもそも開けてはいけない物をなぜ渡したんでしょう?(笑)
このお話の内容は何通りもありますが、どれも浦島がちょっと可哀想に感じてしまいます。
竜宮城に行ってからの内容は、もともとは子供に読ませられないような内容だったそうで、童話では改変されているそうですが、いちどそちらも読んでみたいですね。